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原稿用紙でラブレター

第1章 原稿用紙でラブレター






「あっ!いやその、えっと…あの、」


慌てすぎて恥ずかしすぎて自分が何言ってんのか分からない。


とりあえずにのちゃんの手から用紙を奪い取ると、後ろ手に隠して言い訳の言葉を探す。



バカか俺はっ!


こんな形で伝わるなんてっ…



「…相葉くん」


ドクドクと高鳴る心臓と火が出そうに熱い顔の俺に、小さな声がぽつりと届いた。


「私のこと、からかってるんですか…?」

「…え、」


俯いたまま小さく続けられたその言葉に、きゅっと心臓が止まったような気がして。


「…そんなに楽しいですか?」

「っ、ちがっ…」

「面白がってるんでしょう?
…反応とか、態度とか。
違いますか…?」


そうやって向けられた潤んだ瞳を見て、一瞬で全身の血が昇り上がってくるような感覚に襲われた。



なんで…


なんでそんなっ…



「…違うって!
そんなわけないじゃんっ!
俺はっ!俺っ…」



…ほんとに、にのちゃんのことが好きなんだよ!



「相葉くんっ…」


突然のにのちゃんの声にハッとして、同時に右腕を緩く掴まれた。


「相葉くん…?」


眉を下げてメガネの奥の瞳を揺らしながら、心配そうに覗き込んでくる。


そしてゴソゴソとポケットからハンカチを出すと、優しく頬を撫でるように動かして。


「大丈夫ですか…?」


にのちゃんにそうされて初めて自分が泣いているのに気付いた。



あ…



目の前で無言で手を動かすにのちゃんはいつもの仏頂面じゃなくて。


見たことないくらい優しい顔をしていた。


その顔を見たら、昂った感情や火照った頭もゆっくりと潮が引くみたいに落ち着いてきて。


されるがまま見惚れていると、反対の頬を拭った手が離れていき。


そして目を伏せて小さく"はぁ"と息を吐いた。


「やっぱり…」


さっきからずっと、目の前のにのちゃんの一つ一つの言葉や仕草から目が離せないでいて。


また何か言おうとしているその表情を窺った。


「やっぱりそうだったんだ…」

「…えっ?」


静かに言い終えると目を上げてこちらを見つめてくる。


「…思い違いじゃなかったんですね」


真っ直ぐに見つめてくるその瞳が艶やかに煌めいて。


白いほっぺたは、ほのかにピンクに染まった。

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