
原稿用紙でラブレター
第1章 原稿用紙でラブレター
放課後の教室に翔ちゃんと二人、作戦会議中。
「は?そんなん無理に決まってんじゃん!
他人事だと思って適当に言うなって!」
「ふはっ、適当じゃねえって!
こんなんは勢いに任せりゃいいんだよ」
やけに楽しそうな翔ちゃんに思い出したように反撃する。
「…てかまだ松潤に告ってないでしょ?
よくそんなの言えるよね」
「ふふ、あのなぁ、俺はいくらでもチャンスあんの。
なんなら今からでも行ってやるわ」
「いいよ、行ってきたら?」
「え?…あ、いや今日は雅紀の番だろ!
俺のことはいいんだよ!」
威勢だけはいいクセに、未だ俺と同じレベルにいる翔ちゃんにニヤニヤした視線を送っていると。
コンコンというノックと共にカラカラとドアが開き、にのちゃんが窺うように顔を覗かせた。
目に入った途端、急に高鳴る心臓。
作戦会議なんてろくに出来ないままその時が来てしまった。
「じゃ、俺帰るわ」
「えっ、あ…」
強張った顔の俺に向かって爽やかな笑顔を向けると、肩をポンと叩いて前方のドアに歩いて行く。
「先生さよならー」
「…さよなら、」
ドアの後ろに下がっていたにのちゃんにもわざとらしく笑顔で挨拶をして、翔ちゃんは帰っていった。
急に訪れた教室の静けさに自分の心臓の音がやけにうるさく響いて。
中に入ってきて静かにドアを閉め、そのまま窓際の俺の席に向かってまっすぐ歩いてきた。
思わずガタっと音を立てて席を立つ。
目の前まで来ると、どこか躊躇うように視線を彷徨わせて耳を赤くしていて。
…ん?にのちゃん?
少し低い位置にある顔色を窺おうとした時、にのちゃんが傍らに持っていた紙をスッと差し出しながら口を開いた。
「これは、どういうことですか…?」
目を向けるとそこには、馴染みのある字体で書かれた見覚えのある文字たち。
…っ!
えっ、なんでっ!?
それは紛れもなく、原稿用紙に書いたにのちゃんへのラブレターだった。
一瞬で頭がパニック状態になり全身から汗が噴き出してきて。
えっ、なんで?
なんでこれがにのちゃんに!?
あ、まさか…!
脳裏に一昨日の国語の授業が蘇る。
どうやら、小論文と間違えてこっちを提出してしまったらしい。
何やってんだ俺っ…!
