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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






あんなに賑やかだったのが嘘のように静まり返ったグラウンド。


HRを終えて再び戻ってきたこれからの時間は、教員全員で後片付けに徹する。


今年の体育祭も生徒のケガもなく無事に終わって良かった。


…ひとつだけやるせない事は起きてしまったけれど。


さっき大野先生と知念くんが相談室に入っていくのを見て。


ホッとしたのと同時に、その小さな背中に"がんばれ"と静かなエールを送った。


ガチャガチャとテントの中のパイプ椅子を畳んで運ぶ。


両手に三脚ずつ持とうとしても全然持ち上がらなくて。


他の先生たちは余裕で持っていってるのに。
俺ってなんて情けないんだろ…


「持ちますよ」


急にひょいっと横から椅子を持ち上げたのは相葉くんだった。


「あ…」

「ほら、持っていきましょ」


俺の分まで担ぐようにして歩き出す後ろ姿。


両手に一脚ずつしか持たされず慌てて後を追いかける。


「大丈夫ですか?あと二つくらい持て…」

「いいです、俺持ちますから」


きっぱりとそう言い切るキャップの鍔で翳った顔。
覗き込めば、わざとらしくふいっとそっぽを向いた。


あ。


…もぉ。


相葉くんの不機嫌の原因はただひとつ。


リレーの最後、ゴールの瞬間を俺がちゃんと見てなかったってことみたい。


いや正確には"見れなかった"の方が正しいんだけど。


「…せっかく全部抜いて一番だったのに」

「だからそれはっ…」

「せーっかく二宮先生の為に走ったのに」


元々せっかちな相葉くんの歩幅は更に大きくなって。


ちょっと小走りになりながらも追いつくので精一杯。


だって…
つい普通に名前呼んじゃったんだもん…


そしたら注目浴びちゃって恥ずかしくて。


思わずキャップで顔隠したらすでにゴールしてたんだって。


「最後は見れなかったけど…
カッコよかったよ?ずっと」

「……ふぅん」

「もぉ…さっきもごめんねって言ったじゃん…」

「……」

「そんな怒んないでってば…」

「……くふっ」


少しの間の後漏れてきた笑い声。


その声に目を上げれば、影になった顔が嬉しそうに緩まっていて。


「くふふ、うっそ。怒ってないってば」

「っ…」

「そんなんで俺が怒るワケないでしょ」

「…うそ。だって目が笑ってなかったもん」

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