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原稿用紙でラブレター

第1章 原稿用紙でラブレター






「…なぁ、二宮先生の笑った顔どんなだった?」

「え…超可愛かった」

「だろ?それでどう思った?」

「…どうって」

「その笑顔もっと見たいって思わなかったか?」


大ちゃんのその言葉に、ふいに昨日のにのちゃんの笑った顔が蘇って。



あ…



「二宮先生の笑った顔なんてさ、学校中でお前しか見たことねぇよ多分」


ふふっと笑いながらまた回路版に視線を落とす。


「それって凄いことだと思うけどなぁ、俺は」


ぽつり言い残すと、また黙って作業に没頭しだした。



…あぁ、そっか。
そうだよね。


ここで満足したら、もうこれ以上は絶対にないんだ。


このまま想い続けても"好き"がどんどん膨らんでくだけ。


そして伝えられない、届かない苦しさに打ちのめされるに決まってる。


だったら、いっそのこと全部吐き出してしまったら。


もしかしたら、もう二度とにのちゃんと話すことはなくなるかもしれない。


だけど、もしかしたら。


もっとあの笑顔が見れるかもしれない。


だって…
にのちゃんのことを一番知ってるのは俺なんだから。



目の前で黙々と指先を動かす大ちゃんに目を向ける。



…いつもそうなんだ。


大ちゃんは、答えじゃなくてヒントをくれる。


すぐ弱気になって悩んでしまう俺に、考え直すチャンスを与えてくれる。


それに『自分で決めたこと』っていう自信と、だから後戻りはできないっていうプレッシャーも添えて。


…ありがと、大ちゃん。


俺、やってみるよ。



カツカツと金属の音だけを響かせる部屋で、そう小さく意を決した。


バンッと実験台を両手で叩いて立ち上がると、大ちゃんがビクッと肩を揺らして俺を見上げる。


「っ!…なんだよ」

「大ちゃんありがと!
俺やるよ、やってみせる!」

「…お、やけに意気込んでんな」

「こういうのは勢いが必要なんだよ。
大ちゃんには分かんないだろうけど」

「っ、うるせぇ調子に乗んな!」


わざと怒った顔をしつつも優しい声でそう言う大ちゃんを見て、胸がじんわりあったかくなり自然と笑みが溢れた。

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