
誰も見ないで
第19章 誰も見ないで
洗い物をしてる瑞稀君の隣に「洗ったやつ俺が流すよ」と立つ
「先輩だし、すぐ卒業しちゃったし、話す機会なんてないよね」
「話してみると結構正樹に似てたね」
俺がそう言うと、瑞稀君はクスクス笑いながら
「お母さんみたい?」
と言う
「そうそう、面倒見がいいっていうか、お母さんだよね」
「僕も同じようなこと思った」
2人で笑って
笑いの波が引いて行くと
2人で洗う音だけが部屋に響いた
食器の当たるカチャン、って音
蛇口から出る水の音
それに耳を澄ませながら洗い物をしてると、先に洗い終わった瑞稀君が手を洗って拭いた
それから他のものを片付けに行くのかな、と考えていると
「!」
後ろに回った瑞稀君が、俺の腰に腕を回してぎゅう、と抱き締めてきた
「……瑞稀君?」
落としそうになったお皿を一旦シンクに戻して
手の泡を流す
ふ、と触れた瑞稀君の手は水に触っていたから俺と同じぐらい冷たい
「ーーーー瑞稀君?」
何も言わずにぎゅうぎゅうと抱き締めてくる瑞稀君の名前をもう1度呼ぶ
するともぞ、と動いた瑞稀君がゆっくりと話し始めた
「最近、思い出さないようにしてたから」
