
君が桜のころ
第2章 花影のひと
「…今日のお披露目会は大成功だったわ」
鏡台の前に座り、その美しく長い髪を綾佳に梳かせながら凪子は告げる。
凪子の髪を梳きながら、綾佳は鏡の中の凪子と目を合わせる。
「…ええ、お兄様とお義姉様はとてもお美しくてお客様の注目の的でしたわ」
「貴女もよ、綾佳さん」
凪子は綾佳の手を握る。
「…貴女の初々しい美しさに皆が目を奪われていたわ」
綾佳は堪らずに凪子の足元に跪き、凪子の美しい手に頬ずりをする。
「…お義姉様…」
そんな綾佳を凪子は優しく髪を撫でる。
「…綾佳さんの社交界デビューはいつですか?と沢山のお客様に聞かれたわ」
綾佳は凪子の膝に顔を埋める。
「…でも…私はやはり大勢の方が集まる場所は苦手です。…こうしてお義姉様と二人で過ごせることが幸せ…」
一途に自分を慕う綾佳を愛しく思いつつも、ふと凪子は会での一場面を思い出す。
「…そう言えば…今日は清賀様と二人きりでお庭でお話をしてらしたわね。…何を話していらしたの?」
綾佳は、ああ…と思い出す。
「…ええ。…どうしても私とお話したいと仰って…。でも、お母様のお話をしただけですわ」
凪子は怪訝そうに眉を寄せた。
「…お母様…?…お知り合いだったのかしら…」
綾佳は頷く。
凪子の琥珀色のシルクのナイトウェアの膝を愛おしげに撫でながら答える。
「…ええ。昔…私が生まれる前に、清賀様はお母様と何度かお会いになっていらしたらしいの。とても懐かしがっていらしたわ」
「…そう…」
…何かが妙だ…。
綾佳はうっとりと凪子のジャスミンの薫りを感じながら膝に頬を当て、目を閉じる。
「…そうだわ。…私が清賀様とお話をしていたらスミが血相を変えて飛んで来たわ。…何をしていたのかしつこく聞かれて、お母様のお話をしていたと答えたら、益々青くなって…。おかしいでしょ?」
…そう言えば、スミは清賀を見つけた途端、亡霊を見たかのように怯え、名前を聞いてきた…。
清賀と九条家に過去になにかあったのだろうか…。
しかし、清賀はずっとイギリスで暮らしていたようだから、特に接点はなさそうなのだが…。
美しい顔を曇らせ、考えこんでいる凪子に綾佳は声をかける。
「…お義姉様…?」
すぐに凪子はいつもの落ち着いた顔を取り戻し、尋ねる。
「…他にはなにを?」
綾佳は一旦は躊躇したが、おずおずと口を開いた。
「…横浜のお家に遊びに来て欲しいと言われましたわ…」
鏡台の前に座り、その美しく長い髪を綾佳に梳かせながら凪子は告げる。
凪子の髪を梳きながら、綾佳は鏡の中の凪子と目を合わせる。
「…ええ、お兄様とお義姉様はとてもお美しくてお客様の注目の的でしたわ」
「貴女もよ、綾佳さん」
凪子は綾佳の手を握る。
「…貴女の初々しい美しさに皆が目を奪われていたわ」
綾佳は堪らずに凪子の足元に跪き、凪子の美しい手に頬ずりをする。
「…お義姉様…」
そんな綾佳を凪子は優しく髪を撫でる。
「…綾佳さんの社交界デビューはいつですか?と沢山のお客様に聞かれたわ」
綾佳は凪子の膝に顔を埋める。
「…でも…私はやはり大勢の方が集まる場所は苦手です。…こうしてお義姉様と二人で過ごせることが幸せ…」
一途に自分を慕う綾佳を愛しく思いつつも、ふと凪子は会での一場面を思い出す。
「…そう言えば…今日は清賀様と二人きりでお庭でお話をしてらしたわね。…何を話していらしたの?」
綾佳は、ああ…と思い出す。
「…ええ。…どうしても私とお話したいと仰って…。でも、お母様のお話をしただけですわ」
凪子は怪訝そうに眉を寄せた。
「…お母様…?…お知り合いだったのかしら…」
綾佳は頷く。
凪子の琥珀色のシルクのナイトウェアの膝を愛おしげに撫でながら答える。
「…ええ。昔…私が生まれる前に、清賀様はお母様と何度かお会いになっていらしたらしいの。とても懐かしがっていらしたわ」
「…そう…」
…何かが妙だ…。
綾佳はうっとりと凪子のジャスミンの薫りを感じながら膝に頬を当て、目を閉じる。
「…そうだわ。…私が清賀様とお話をしていたらスミが血相を変えて飛んで来たわ。…何をしていたのかしつこく聞かれて、お母様のお話をしていたと答えたら、益々青くなって…。おかしいでしょ?」
…そう言えば、スミは清賀を見つけた途端、亡霊を見たかのように怯え、名前を聞いてきた…。
清賀と九条家に過去になにかあったのだろうか…。
しかし、清賀はずっとイギリスで暮らしていたようだから、特に接点はなさそうなのだが…。
美しい顔を曇らせ、考えこんでいる凪子に綾佳は声をかける。
「…お義姉様…?」
すぐに凪子はいつもの落ち着いた顔を取り戻し、尋ねる。
「…他にはなにを?」
綾佳は一旦は躊躇したが、おずおずと口を開いた。
「…横浜のお家に遊びに来て欲しいと言われましたわ…」
