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君が桜のころ

第2章 花影のひと

春翔は綾佳を困らせないように明るく言う。
「…今は友達でいいんだ。…少しずつ、僕のことを男として見てもらえるように、僕は頑張る。綾佳ちゃんに相応しい立派な紳士になる。…だから、僕にチャンスをくれない?」
「…春翔さん…」
春翔の整った美しい顔に凪子の面影が重なる。
綾佳の胸はちくりと痛む。
「…わ、私は…春翔さんにそんな風に言っていただける資格はないんです…私は…私は…」
優しくしてくれる春翔への申し訳なさに、涙が溢れて言葉にならない。
泣き出した綾佳を春翔は慌てて、慰めようとおろおろする。
「…ご、ごめん、綾佳ちゃん。僕、また変なこと言ったかな?」

そこに巡回をしていた家政婦の麻乃が通りかかり、綾佳が泣いているのを目敏く見つけ、目を吊り上げて駆け寄って来た。
「春翔様ッ!綾佳様をなぜお泣かせしているのですかッ!」
「ち、違うよ!僕は何もしてないよ!」
「ではなぜ綾佳様はお泣きになっているのですかッ⁈」
「…そ、それは…」
口籠る春翔に、麻乃は更に目を吊り上げ、睨み付けると
「さあ、綾佳様、控えのお部屋でお化粧をお直しいたしましょう。…もうすぐ旦那様がスピーチをなさるお時間ですからね」
と、綾佳を大切に庇うように連れて行ってしまう。

「…なんだよなあ。おっかないバアさんめ…」
春翔は一人ぼやく。
そしてふと…
「…綾佳ちゃん…資格がないってどういう意味だろ?」
と首を傾げ、溜息を一つ吐くと広間へと戻って行った。

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