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僕は君を連れてゆく

第50章 こんなにも

俺の処女作は結局、智しか読んでない。

出版社に持っていくのを決めて、いつにするか日にちを決めて、智も着いてきてくれると言った。

それからしばらくして、俺たちは別れたから。

それに、タイトルも決められなかった。

タイトルなどは出版社から変更を言われることも多いと当時聞いていたから、ボンヤリと頭にあったもののこれ!というものがなくて。

智も、題名つけないの?と何度も聞いてきたけど。



今夜は眠れそうにない、な…

ベッドから抜け出て携帯の電話帳を開く。

声を聞きたいと思って、
何度も何度も見たこの名前。
電話番号は覚えてしまったんだ。

「智…大野…智…」

別れてから一度も会おうとしなかった。

智は俺に何度も連絡くれた。

会ってもう一度話がしたい。
会ってもう一度やり直そう。
会ってもう一度顔が、見たい。

そう、言ってくれた。

でも、俺はそれを無視し続けた。

もし、もう一度会ってしまったら
もし、もう一度声を聞いてしまったら

抱き締めてしまう

そう、思ったから。








気がついたら眠っていたようだ。

いつ戻ったのか、ベッドの中で目が覚めた。

布団から出ると部屋の外からコーヒーのいい香りが漂ってきた。

ドアを開けたら潤がコーヒーを注いでいた。

「起きた?コーヒー飲む?」

壁時計に目をやったら10時を過ぎたところだった。

「あれ?休みだっけ?」

「ううん、午後から行くよ」

「なんだ、起こしてくれればよかったのに」

そうしたら、俺が朝ごはんの準備をしたのに…

「ほら、飲みなよ」

湯気のたつマグカップ。

「いただきまーす」


今日も雲一つない青空だった。



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