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知らない世界

第39章 終息

その日の夜、落ち着かず眠れず、部屋に置いてある松葉杖を使って神崎さんがいるICUに向かった。
中に入らせてもらえないのはわかっているけど、俺はそこから動かなかった。


「潤?」


その声に振り返ると、大野さんが立っていた。


「大野さん」

「思い出したのか?」

「うん・・・翔さんは?」

「兄貴は後始末と言うか、忙しくてな。
お前、マンションに帰るんじゃなかったのか?」

「今日がとうげって聞いて、気になって・・・」

「あのぉ、もう遅いので病室にお戻りください」


看護師に声をかけられた。


「すみません、中に入っちゃ駄目ですか?」

「それはちょっと・・・」

「邪魔しませんから、中に・・・近くにいさせて下さい。お願いします」


婦長さんらしき人が近付いてきた。


「先生から聞いてます。どうぞお入り下さい」

「ありがとうございます」


中に入り、ベッドの横に座った。


「神崎さん、ありがとう」


点滴や何やらついている手を握った。
何もできない自分に苛立ちすら感じた。


「神崎さん、目を開けて・・・お願い」


ただただ祈ることしか出来なかった。


「潤、もう部屋に戻ろう。
お前が倒れたら、こいつも悲しむぞ」

「うん・・・」


言う通りに病室へ戻ろうと立ち上がろうとした。


「んっ?・・・えっ!?」

「どうした潤」

「今、神崎さんの手が動いた・・・あっ!」


握っていた手が、ピクリと動いた。


「えっ、動いた・・・動いたよ今」

「潤、静かにしろ。
気持ちはわかるけど・・・あっ、神崎」

「神崎さん・・・神崎さん・・・」


俺達の声で看護師がやって来た。


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