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Best name

第10章 暗闇の底に

『ワケのわかんねーこと言ってんじゃねぇよ
アイルっ…
お前は何も…何にも悪いことしてねーだろ!?
堂々としてろよ!
こんなことっ…もうやめてくれよ!』

やっと出たのがこれだった
こんなのが…精一杯だった

アイルがオレを見つめて…微かに笑う
目に涙をいっぱい溜めて…

『じゃぁ…どぉして…?』

アイルがかすれそうな声を絞り出してオレに言う


『じゃぁ どぉしてぇ…!?

どうしてこんな目にあうのっっ!??』


アイルが泣きわめくように大きな声を上げた
目から大粒の涙をこぼしながら


『なんでっ…
こんな目にあわなきゃいけないのっ?!
教えてよっっ!!!』


殆ど感情的になることのないアイルが
初めて…感情を大爆発させた

『4年前もっ…今も…っ…あたしは…
自分に恥ずかしい事は何ひとつしていない!!!』

『……』

オレは返す言葉なんかまるで出てこなかった
アイルは全てを洗い流すかのように叫び続けた

いつかのアイルの言葉がよみがえった


恋愛も何も〃望んでいない〃と言った
アイルの言葉…

『っっ…沢山ガマンして…努力して
あたしは一生懸命…必死に生きてきた!
それでも…こんなになるんならっ…ぅっ…
何を頑張ったって、やり直したって
おんなじじゃないっ!!
死んだっておんなじじゃないっっ!!!』


アイルの言っていることは全くもって正論で…
それでいて本当の心の…
魂の叫びのように感じられた

オレに…オレの前で初めて見せた姿
彼女の本当の本音だったのだろうと


ただ普通に〃生きる〃ために…
ごく普通の恋愛や遊び、楽しみ
…人並みの幸せさえも望まず…
必死に生きてきたアイル

『もぅ疲れたよ…楽になりたい
なんで…何度も なんで…何のために…?
どうして あたしが
こんなひどい事されなきゃいけないのっ!??
あたしが何したっていうのっ?!ねぇっっ…!』


アイルが自ら川に入って身体を浸けて
バシャバシャと水を自分の顔や身体にかけながら
泣き叫んだ

死ぬ事なんかより生きていく方が
うんと苦しい地獄…とでも言うように

いっそ…死なせてやる方が
幸せなのかも知れない

…とさえ思えるほど痛ましい
今にも砕け散るガラス細工みたいなアイルの姿

それでも…オレは
オレには彼女の手を…
どうしても離すことができなかった

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