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キラキラ

第35章 屋烏之愛


「…………」


口を尖らせ、仏頂面の松本。
どうやら、本気で悔しがってるみたいで、なんだかおかしい。
ちょっと可愛らしくすらみえてくる。

俺は、笑って首を振った。



「……あんなの。触れたとはいいません……」

「でも嫌だ」

「……ふふっ。嫌って……」

「嫌なものは嫌だ」



ついに松本は駄々をこね始めた。

俺は、怖かったのも痛いのも忘れて、なんだか楽しくなってきた。


くすくすと笑うと、また肩を引き寄せられる。
頬にトクトクと松本の鼓動を感じる。
俺は、松本の胸によりかかり、ぼんやりと目を閉じた。

怒濤のような出来事が続いて、キャパオーバーな気持ちが凪いでゆく。
なんだか、この腕の中にいることが、無性に安心できた。



しばらくじっとしていると、六時間目の終わりをつげる鐘がなる。

松本は、俺の頭をポンとして、体をそっと離した。


「……ちょっと、俺は一応怒ってるから、そいつらシメてくる」

「……え、でも……」


相手は四人いるけど……


「上田連れてくから、大丈夫。ここで待ってろ。30分で戻る」


俺の心配を払拭させるように笑ってから立ち上がった松本は鋭い瞳になり、スマホを耳にあてながら歩いていった。
俺は、ポロシャツの襟をぎゅっとあわせたまま、青い空を見上げた。

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