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なぜ?

第5章 癒し

ただのイジュノ。そんなこと考えたこともなかった。

ジュノさんはいつも画面の向こう側の人だった。
自分の隣にいるなんて、想像もしてなかった。


私の足は何となく音楽室に向いた。
何となくピアノに座り、何となく歌っていた。
頭の中はジュノさんのことでいっぱいだ。



ちゃんと名津子にそばにいてほしいって伝えるために、名津子の部屋に向かった。
いないしっ!どこ行ったんだよ!

戻りかけたら、前から亮介が歩いてきた。
出たな!現在の最大のライバル!

「こんばんは。」
「こんばんは、ジュノさん。怪我はもう大丈夫ですか?」
「はい。おかげさまで。名津子ですか?いないみたいですよ。」
「えっ……話があるって言ったのに。名津子見つけたら、探してたって伝えて貰えますか?」
「わかりました。伝えます。」
…って、絶対に伝えない!オマエの用件なんて丸わかりだ!敵に塩は贈らねえ!

亮介が帰っていくのを確認して、名津子の捜索を開始した。
思いつく場所は1つ。音楽室だ。


俺は音楽室のドアを開けた。えっ?真っ暗?
ここにもいないのか…とドアを閉めようとした瞬間、ピアノと歌声が聞こえた。

名津子?俺は真っ暗な部屋の中をピアノの方へ歩いて行った。


…いた。
「名津子。何してんの?」
背中から名津子に抱きついた。

「ジュノさん?どうしたんですか?よくわかりましたね、ここにいるって。」
「うん。絶対ここだと思った。」

名津子、小さいな…こんなに小さいのに、自分より俺のことなんだ。
廻した腕に力を入れた。

「ジュノさん。苦しいです。どこにも行きませんから、離して下さい。」
「嫌だ。このままがいい。」

首筋に顔を埋めると名津子の匂いがした。懐かしい匂いだ。
昨日名津子と馬に乗ったときにも嗅いだ、懐かしくて優しい匂い。

「俺、名津子の匂い、好き。」
「えっ?臭い?」
「バカ、加齢臭だなんて言ってないだろ?ホッとする匂いなんだよな…」
「加齢臭って、そっちの方がひどくない?」
「…やっと笑った。」

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