
泣かぬ鼠が身を焦がす
第21章 能ある鷹も身を焦がす(サイドストーリー)
私が深く頭を下げようとすると、社長はそれを手で制されました
「いや、謝罪はしなくていい。秘書も人間だからな。何かあったか?」
「……いえ、特には……」
昨日のことは、仕事も終えた後の完全プライベート
社長を巻きこむわけには参りません
「……」
相談を拒否するように黙り込んでしまった私に、社長は小さくため息を吐かれました
呆れられてしまったでしょうか
でも、どうすれば……
「静。今日は帰っていい」
「! 社長っ、それは……っ」
「いや違う。叱っているのではなく……静には、ゆっくり考える時間が必要なんじゃないのか?」
「!」
「好きなことでもして、ゆっくり休め。仕事はそれからでいいから」
私はなんと幸せな秘書なのでしょうか
社長にこんなにも気遣って頂けるなんて
「……ありがとうございます。明日からきちんと仕事いたします」
「あぁ。期待している」
涙が流れそうです
私は会社を後にしながらしかし今泣いているわけにはいかない、と決意を固めました
今日、三村様との関係を清算します
そして明日からまた清々しい気持ちで仕事出来るようにします
必ず
私は携帯電話を取り出しました
