
泣かぬ鼠が身を焦がす
第2章 チーズの夢
また杉田さんに抱えられたと思ったら、ぽすんとベッドに寝かされた
そして
「俺は仕事に行くから、あまり悪さをするなよ」
そう言うと、力が入らなくなった俺の額にキスを落とした
「!?」
「なんだ?キスには慣れていないのか?」
「そ、そんなわけねーじゃん!!毎日濃厚なのかましてたっつの!驚いただけー」
「そうか」
杉田さんは「じゃあな」と言うと部屋から出て行ってしまう
びっっっっっっくりしたぁ
キスなんてされると思わなかった
慣れてないって、当たり前じゃん
俺なんかにまともにキスする奴なんていねーんだよ!
「あうぅ……」
まだ顔、赤いかな
「忘れていた」
「!? なに!?」
枕に顔を埋めた瞬間、突然扉が開いて杉田さんが現れた
「お前の、名前は?」
「名前?」
「そうだ。いつまでもお前じゃダメだろう」
そんなこと聞くために戻ってきたのかよ
忙しいんじゃないの?
「…………ノラ、だよ」
「……本名か?」
「煩わしいもの背負ったりはなるべくしない方がいいよ?」
関係が終わった時、なにも残らない方がいい
これまでずっとそうだった
「…………そうか。ノラ、か。皆にも伝えておくよ」
「うん」
