
イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
もう片手はうなじに押し当てられ、脈を測られているのだとテリザは気づいた。
彼の手は温かく、優しかったが、男性に触れられる本能的な恐怖に身がすくみ、ぞわりと背筋が震えた。
しかしテリザが微かに震えているのに気付いたのか、クリスはすぐに手を離した。
「失礼…。いささか脈に乱れがありますが、調子は悪くありませんか?」
「だ、大丈夫です…。心臓に軽い疾患あって…発作はもう治まりましたから…。」
しどろもどろになりながら答えると、クリスの手がふわりと頭を撫でた。
「そうでしたか…。ちゃんと治すんですよ。」
「…?」
見上げると、クリスは優しく微笑んだ。
「あなたのような素敵な女性は、幸せになるのが一番の役目ですよ。」
「っ…」
クリスの穏やかな微笑みを見ていられなくて、テリザはあからさまに目をそらしてしまった。
「ありがとう…ございます…」
どうにかその言葉を絞り出し、頭を下げた。
「長居してしまってすみません。ありがとうございました。」
「…?いえ、いつでもいらしてください。」
様子を疑問に思いつつも言及しないでいてくれたのがありがたかった。
テリザは半ば逃げるようにして踵を返し、行ってしまった。
