
不透明な男
第14章 終幕
A「成瀬!」
ガタッと大きな音を響かせて俺は崩れ落ちた。
バスタブに凭れる様に身体を投げ出した俺の元に、二人はドアを開けて飛び込んできた。
B「だから言っただろ…。大丈夫か?」
智「ん、はぁ、はぁっ」
俺を抱き起こす腕を掴む。
泡を纏ったままの濡れた手で掴んだもんだから、Bの袖はぐちゃぐちゃになってしまった。
智「あ…、ご、ごめ…ん。濡れちゃっ、た」
荒い息を吐きながら、俺は少し笑う。
そんな俺を見て、何故か二人は辛そうな顔をする。
智「ど、どうして、そんな顔を」
A「苦しいだろう?話さなくていい」
智「んっ、く…」
B「洗ってやるよ」
ぎゅっと俺を抱き締めたまま、俺の身体を丁寧に泡で擦り出す。
智「っ、ふ、服が」
A「着替えならある」
智「一人で、出来る、よ…」
B「倒れてたじゃないか。…お前は汚くなんて無いよ。大丈夫だから、触らせろ」
Aは俺が離れない様に、しっかりと抱き締める。
その後ろから、Bが俺の身体に泡を纏わせる。
A「どこ触られたんだ、言ってみろ」
智「み、耳と…、首と…っ」
俺の伝える箇所を、二人は丁寧に洗う。
滑らかな泡で、俺の耳の裏や首筋、鎖骨、背中、至る所を優しく擦る。
智「はぁ、ぁ…」
B「頭も洗うぞ。目を瞑れ」
幾分か震えがマシになったものの、俺はAにしがみついていた。
しがみついたまま目を閉じ、頭も丁寧に洗って貰う。
智「ん…、気持ち良い…」
A「ははっ、そうか」
智「ん…」
うっとりと目を閉じ、唇を薄く開けて呼吸をする。
その隙間から漏れ出た息は、自分の耳にも、とても甘く聴こえた。
A「前も洗うぞ」
頭と背の泡を流して貰うと、Aは後ろに回り俺を抱き締めた。
脇の下から出した手で、俺の腹を泡で擦る。
B「あぁ…、こんなに跡付けられちまって…」
智「ちゃんと洗ってよね…」
俺は完全に無防備だ。
身体をAに預け、だらんと力を抜いている。
いや、わざと抜いたんじゃない。
もう力が入らないんだ。
ガタガタと震えた身体は、二人の甲斐甲斐しい迄の温かさによって治まりつつあった。
だけど暴れる血液は未だ収まらず、苦しい事に変わりは無かった。
