
不透明な男
第11章 背徳
しばらくして戻ってきた社長は、俺の待つリムジンに乗り込み俺を家に送り届けた。
俺が降りると社長は運転手に行き先を告げた。
あのマンションまで戻ってくれと、そう運転手に言うと、俺に笑顔を向けた。
社『次は画材を買いに行こう』
そう言い残すと、俺の返事を待たずに車は颯爽と去って行った。
青年を残したマンションに、社長は急いで戻ったんだ。
A「この子が、自分と同じ目に遭うんじゃないかと、凄く心配してたんだよ」
B「この子を守ろうと、覇気が戻りそうだったのも束の間、日を追う事にどんどん痩せてってさ…」
智「……」
B「そんなある日、急に居なくなったんだよ」
智「え…?」
A「生気のカケラも残って無いんじゃないかって奴がさ、急に飛び出して行ったんだ」
青『…今、あの子、来てなかった?』
A『ああ、いつもの奴らに連れて来られたみたいだな』
青『捜したけど居ないんだ。社長も』
B『え?確かついさっき見かけたんだけどな』
でも居ないんだ、頼む一緒に探してくれ、と言う青年の後ろから別の奴が情報をくれたらしい。
『最近の社長のお気に入りの子か?それならさっき社長に連れられて出ていったぞ』
青『え…、社長と一緒に…?』
『ああ』
青『それは二人でしたか?他には?』
『運転手と、そうだな…あと二人位居たかな。ほら、あの車だよ。最近買った新しいヤツ。無いだろ?』
駐車場には最近新調した車が無かった。
あれに乗ってあの子は連れて行かれたんだ、どうしようと青年は青ざめたらしい。
『GPS付いてるぞ』
その言葉に目を開き、位置情報を確かめる。
その手は明らかに震えており、二人はそんな青年を心配した。
A『どうする気だ』
青『助けなきゃ』
B『やめとけよ、無理だ』
青『駄目だよ、放っておけない』
震える手で見付けた場所は、あるマンションだった。
A『…何処だここ』
青『あの、マンションだ…』
B『マンション?…って、おい!待て、行くな!』
呆然とする二人を残して青年は走り出した。
すぐに車のエンジンの音が聞こえ、青年は荒い運転をしながら屋敷の敷地を出た。
青年に会えなくなったのは、その日からだと、二人は言った。
