
不透明な男
第8章 序章
智「おれ、バカじゃん」
東「…はっきり言おう。確かにお前はバカだ」
智「ひでぇ…」
東山先生は、ははっとひと笑いすると昔話を始めた。
東「本当にお前はバカすぎて、単純で人をすぐ信じるんだよ」
智「はい?」
東「記憶が無い、自分の事も解らない、親も出てこない。そんな不幸な境遇の少年だ。しかもすこぶる可愛いときた。皆が優しくしない訳が無いだろう?」
智「みんなって?」
東「病院のスタッフ達だよ。俺がどれだけ助けてやったと思ってるんだ」
智「何を助けて…」
東「看護士におっぱいを顔に押し付けられて、ぱふぱふされてた所を救ってやったし」
智「え」
東「診察だと称して、医師にすっぽんぽんにされかかってた所を蹴散らしてやったし」
智「は」
東「他にも色々だ。言い出したらキリが無い」
智「マジで…」
まあ、少しずつ記憶も戻ってきて徐々に対応もマシになっていったがな、と先生は語る。
東「最初は産まれたてのヒナ鳥の様だったのに、いつの間にか皆を掌で転がしてたんだからな(笑)」
智「おれが?」
東「そうだよ。純粋な顔は保ったまま、それはそれはコロコロといとも簡単にな」
智「ええ…?」
東「多分いつもそういう目で見られて来たんだろうな。18歳のお前は既にあしらう術を心得てたよ」
そうなのか?わかんねえやと思いながらも、東山先生の話す昔話のお陰で、情けない気持ちが少し晴れた気がする。
東「只、問題は俺がこの話を聞かせたのが初めてじゃ無いって事だ」
智「ん…?」
東「3年前にも話してるんだよ」
智「と、いうと…?」
昔話を聞いて和んでいる場合ではなかった。
