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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

ティッシュで垂れる鼻を拭きながら、
美味しいつけ麺を啜る。

仕事の事など些細な事を
お互いに笑って話す。


けど、ふと盛り上がっていた会話が途切れた。


「俺、明日、誕生日だ…」


「え?」

ビックリする情報が和也くんから発せられる。

「俺、明日で33歳です…忘れてた…」


忘れてたって……

自分の誕生日を……なんで?


どんな理由でその事を
思い出したのかはわからない。


でもそれを俺に言うって事は……

いや、俺にしか言う人がいないなら……


「マジで?うわぁー!つけ麺なんかでごめん!」

「つけ麺なんかでごめん!」

俺の声はどうやら店主に聞こえてたらしく、
言葉を誇張されて真似される。

『すみません』と慌てて謝ると、
『サービスです』とニッコリ笑って
卵が2個乗ったお皿を差し出した。

『いただきまーす』なんて言って
嬉しそうに卵を頬張る和也くん。


ねぇ、こんな事で喜んでいいの?

って、また店主さんに失礼だな。


「櫻井さんも食べて食べて!」

そう言って俺の方にお皿を滑らせる。


煮え切らない気持ちを抱えながら、
俺は卵をつけ汁に浸して食べた。


明日が誕生日だという事を思い出した後も、
和也くんはさっきと何も変わらない。


なんで?

どうして?


そればっかりが頭の中でグルグルして、
解決策を見出す事ができない。


潤に祝って欲しいんじゃないの?

でもわかってるんだろ?

一番祝って欲しい人に祝ってもらえない事を……

だったらせめて初めて出会った時のように、
本音を吐き出してほしい。


それをそばで聞くことが唯一、俺に出来る事。


「そろそろ出ますか?」

「うん、そうだね」

長居できる雰囲気ではないので、
俺たちは店を出た。


俺に出来る事はないのか?


誕生日……

誕生日っていえばなんだ?


必死に考えを巡らせて
ひとつの答えを導き出した。

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