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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

俺にとって結婚っていうのも、
親友から恋人という肩書きが
変わった時と同じ感覚だった


でも互いの両親の為、結婚式はあげた。


いつになく雅紀がはしゃいで、
俺の自慢話を出席者にしてたから恥ずかしかった。

滅多に俺の事を他人に話す事はなかったから………


新婚生活なんてみんなに言われけど、
雅紀とは同棲していたから新鮮味もない。

結婚したって何も変わらないって……

そう、思ってた。


でも少しずつ雅紀が変わっていった。


『何時に帰ってくる?』
『今度の休み、どこか行かない?』
『ご飯作って待ってるね』

俺の動向を確認したり、
一緒に行動したり生活する事を求め始めた。

でも俺はそれを望んでいない。

だからこそ俺は雅紀と付き合って結婚したんだ。


雅紀とは適度な距離が保て、
干渉しなかったからこそ楽だった。

それを理解してくれるのは雅紀だと思ったから……


でも俺は何も言わなかった。

周りに『新婚』だの言われて浮かれて、
そんな生活をしたいんだって思ってた。

それくらいなら付き合ってもいいって思ってたし、
上司からの誘いを断れる口実にもなった。


でも雅紀は楽だったあの頃に戻る事なく
益々俺に干渉してくるようになった。

そして子どもを欲しいと求めるようになった。


楽だった雅紀との生活が苦痛になった。


でも運よくプロジェクトに参加する事もあり、
雅紀と距離を置く理由が出来た。


『忙しい』『疲れた』

それは俺にとって魔法の言葉。


それさえ言えば、連絡を返さなくていい。

それさえ言えば、家に遅く帰ってもいい。

それさえ言えば、一緒にご飯を食べなくていい。

それさえ言えば、雅紀と出かけなくていい。

それさえ言えば、抱かなくていい。


それさえ言えば、雅紀といなくていい。


仕事が理由なら俺の本心を言う事もないし、
雅紀を傷つける事はない。


そして元の俺たちに戻れると……思っていた。

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