
甘く、苦く
第45章 にのあい【現在進行形】
「大野さーん…。」
「んー?」
スケッチブックに
顔を向けたまま答えた。
にのは返事してんのに
肩をぐわんぐわん揺らす。
「やーめろって…
酔うっつーの」
「えへへー。
…今日はさ、
帰りたくないんだよね」
「で?」
「泊めて?」
にのは顔の前に両手を
重ね合わせた。
「またかよぉ~…
にの、俺をベッドから
突き落とすんだもん…」
「今日は落とさないからさあ!
…夜まで時間あるし?
ゲーム持ってきたからさ、
一緒にしようよー」
にのはカバンから
ゲーム機を二つ取り出した。
…よくそんなに持ってんな。
俺をソファーに誘導させて
ゲーム機の電源を入れる。
「なにする?」
「マリカー」
「またぁ!?」
「俺それしかできない」
にのは笑いながら
通信プレイを始めた。
…うーん。
やっぱりにのに
勝てる自信がない。
「…おじさん、弱い」
「にのが強ぇんだよ」
「ふふ、わかっちゃったあ?」
「ムカつく…」
にのは口に手を当てて
くふふって笑う。
あ、この顔始めてみたかも。
「にの、そのままでいて。」
「え…?」
にのは目を丸くさせて
俺を見てる。
…けど、すぐにわかったみたいで
にのはさっきの姿勢のまま俺を見てた。
「あ、おじさん、鼻かみたい」
「だめっ!
もう少しだから!」
にのはずーっと
そのままの姿勢でいてくれた。
お陰でいい絵が描けた。
「うわー、おじさん、絵、うまーい」
「棒読みじゃねーかよ。」
にのの頭をぺしっと叩くと、
ぽろっと涙が零れた。
