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甘く、苦く

第88章 大宮【In Fact.】



「え、驚かないの?」

と、目を丸くさせて俺を見る翔さん。

「いやぁ、俺は生きてるだけで
毎日驚かされてるからね。
今日もパソコン、
乗っ取られそうになった人いたしね」

と、翔さんの方を見て笑えば、
顔を赤くさせた翔さんが

「あれは急いでたから…」

なんて言い訳。

「ふ、まあいいけど。
んじゃ、俺先に行くねー
お会計ヨロシクー」

「え!?お、おいっ、待てよっ」


翔さんの慌てた声を聞いて、
ひとりで笑いながら店を出た。


ふー、と深呼吸を三回して、
緩めたネクタイをもう一度締め直した。

…智、今頃何してんだろ。

ポケットから携帯電話を取り出し、
メールボックスをチェックする。

ラインの方がずっと早いのに、
智は頑なに使いたがらない。

そういうところ、
ほんとおじさんなんだよなぁ。あの人。

メールでも送るか、と思い、
少し文章を考えてみた。


…やめよ。

付き合えたからってバカらしい。

自惚れてるみたいだ。


未送信フォルダーに追加しました。

と表示が出たことを確認して、
携帯電話をポケットに突っ込んだ。

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