
甘く、苦く
第88章 大宮【In Fact.】
「ほんとあのハゲふざけてるよな」
「ああ、月末に仕事追加してくるの
やめてほしいよな」
「なー」
ふたりでうどんを啜りながら
愚痴り合い。
「あ、そういや」
「ん?」
翔さんが何かを思い出したように
うーんと唸ってから。
「恋人できた?」
「ぶふっ、」
真剣な眼差しを向けてくるから、
思わず噴き出してしまった。
「その反応は図星?」
「…さあな」
口周りをお手拭きで吹いて、
氷水を飲み干した。
…うまく隠れてるはずだけど、
痕、見つかったか?
「俺さあ」
「ん?」
「できちゃったんだよね」
「…ふーん」
「え?もっと驚けよー!
俺にだぞ!?」
「はいはい…」
基本人のことは無関心なんだ。
例え三年の付き合いの翔さんでも。
「んでさ、その相手なんだけどな?」
「うん」
「驚くなよ?」
「はい」
真剣な顔だから、
こっちも緊張してきた。
翔さんも氷水を飲み干して、
ぷはーと間を置いてから。
「後輩の松本」
「……はぁ」
「だから、今年入社してきた松も──」
「わかってる」
「だから驚くなって言ったのに…」
「いや驚いてるんじゃなくて…
どっちがどっち?」
そう言えば、顔を赤くさせて
「まだしてない」
と。
…ピュアな女の子か。
