
DAYS
第32章 オールリクエストshort story♡
食べ終わったあとも、
まだこの店を離れ難くて。
「コーヒー、もらえますか?」
「はい。」
まだもう少しここに居たくて、
いつもは缶コーヒーしか飲まないくせに
コーヒーを頼んだ。
飲めれば何だっていいと思ってたし、
わざわざ高いお金を払ってまで
店でコーヒーを飲む意味も分からなかった。
そんな俺にも分かる。
運ばれてきたコーヒーの美味しさ。
「美味しい、このコーヒー。」
「でしょ?
コーヒーは大ちゃんの担当なんです。
ねー?」
「えぇ。
気に入って貰えました?」
「はい。とても。」
苦味の中に、ほのかな酸味。
芳醇な奥深い香りは、
俺の神経をゆっくりと静めていく。
口に含めば、少しフルーティな香りが
鼻を抜けていく。
「あの、これもどうぞ。」
あの人が持ってきたのは、
シフォンケーキ。
「え、いや。俺、頼んでませんよ?」
「いいんです。俺からのサービスで。」
甘いものは苦手だけど、
食べてみれば、これがまた美味かった。
心もお腹もすっかり満たされたころ、
窓の外の雨も、だいぶ弱まっていた。
帰りたくはない。
だけど、ここにいられる理由がない。
「ごちそうさまでした。」
「ありがとうございました。」
会計を終えて、ドアに手をかける。
あの人は、俺を飛びっきりの笑顔で
見送ってくれている。
雨は止んだ。
だけど、この気持ちは留まることを
知らないらしい。
ここで終わりになんてしたくなかった。
「あの…!」
「どうしました?」
「俺、二宮和也って言います。
お名前、教えてもらっていいですか?」
「は?
え…っと。大野です。」
びっくりした顔をしてる。
俺だって驚いてる。
人生で初めて、自分から人の名前を聞いた。
雨はすっかり止んで、
雲の隙間から少しだけ太陽が顔を出した。
「俺、大野さんのこと、好きみたいです。」
-end-
