
誰かお願いつかまえて
第9章 女たちの戦い
茶色の大きな瞳は迷いに揺れているように見える。
『……たく、ない』
「え?」
普段のナミとは違う、かぼそい声。
『行きたく、ないっ…』
涙を流したナミを見て、自分が思っていたよりもナミの事情は深刻だと思った。
高校時代だって、悔しくて泣いているのを見たのは数えるほどしかなくて、いつも笑っていた。
仕事の話だって、忙しいとか難しい以外の愚痴は聞いたことがなかった。
だから、いつも笑って仕事をしているんだとばかり思っていた。
(馬鹿じゃないの、私…)
同じ人だとはいえ、学生と社会人じゃわけが違う。
いつも笑っていられるほど、世の中は甘くない。
きっとナミは今まで吐けなかった弱音を今吐いている。
電話してきたときは、休めって言ってしまった。
だって、スーツを切られるなんて "些細な嫌がらせ" じゃない。
それでも頑張ると言ったのは強がりに決まっていた。
それが、今崩れかけている。
(ナミが欲しいのは、私の "行かなくていいよ" って言葉。私もそう言ってあげたい。
だけど―――――)
「ダメよ。さっさと行きなさい」
