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未知夢

第8章 時間

 あなたの笑顔で僕達ファンが笑顔になれたように……今度は失ったはずの笑顔をもう一度、与えたい。


 繁は体を震わせ、悔し涙を流す。


 この場には自分と、動かない高円寺綾しかいない。


 誰も歩いてさえもいない。


 繁はしゃがみこみ高円寺綾の手を握った。


 まだ温もりが残っている。


 自殺じゃないと思いたかった。


 これは自殺じゃないと。


 まさか、あそこにいた、あの男に落とされたのか?


 繁は立ち上がった。


 あの男はまだいるのか?


 取っ捕まえてやる。



 繁はエレベーターまで走った。


『ゴトッ』


「ん?」


 何かがズボンのポケットから落ちた。


 ポケットに手を入れると、左のポケットの底に穴が空いていた。


 ふと、下を見る。繁が落としたのは、奇妙な夢の中で手に入れた緑色の石だった。



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