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未知夢

第12章 好機

「高円寺綾は俺の見た限り、何度も死んでいる。だが、高円寺綾子が本名なんだ。元も子もなくすってことは、綾のままで終わるってこと。本名の綾子で生きててほしいと思った。俺が今見てるのは、高円寺綾子だ」


「!!」


 綾子は初めてだった。父親以外に自分をブランドとしての「高円寺綾」ではなく、一人の女性「高円寺綾子」と見ている者に会ったのは……。


〔お、おぅ……お前、ちょっと成長した?〕


「34になってやっとな」


 高円寺綾子は繁に担がれ、柵を越えて元の位置に戻った。


〔まさか……過去を変えやがった! なぜだ?〕


「それは……俺が高円寺綾ではなく、高円寺綾子を救いたいと思ったからだ(ただ、確信はない)。未知夢で掴みとったのは、俺の手に入れたい女性じゃなく、掴みたい命だったんだ(いま、自分に酔いしれている)」


 綾子と隆夫はその場で抱き合いながら泣き崩れた。



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