
凍夜
第5章 渇望
「ああ、言わないね!」
レイジは背中を丸めるとスツールに深く腰を据え、私の方を見た。
「君、知ってるよ、リナだ。」
私は突然名前を言われ、また驚いた。
「銀さんの拾ったコ!」
レイジはそう言って、胸元からパーラメントの箱を取りだし一本口にくわえると、デュポンのライターを慣れた指先で弾いた。
美しい高い音色が上品に響き、まるで再会に喜んでグラスを合わせる音を思わせた。
レイジは私の目の前に一枚の名刺を置いた。
そのレイジの指先の端正な爪の形に思わず見とれた。甘皮がキレイに処理されていてみずみずしさを感じた。
「俺は死神じゃねぇよ?信じないか?」
私の目を挑戦的にのぞきこんだ。
私は目をそらせた。
「また会おう……。」
レイジは立ち上がり静かに店を出ていった。
