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凍夜

第5章 渇望


「ハーフムーンって名前はどういう意味なのかな?」

川原が、ロックグラスを傾けながら訊いた。

私はショットのワインに口をつけたところだった。

《意味……?訊くの……。》

私はグラスから口を離すと中を覗きこんだ。

一瞬グラスの中で羽ばたく黒いアゲハ蝶の姿を見た気がしたが、それは瞬きした私のまつ毛だった。

透明なワインは鏡のようにそれを映していた。

《少し疲れてるのね……。》

私は、肩をすくめるようにして笑ってみせた。

「全然意味なんてないの……。ごめんなさい。」

《私の心の中なんて知られたくはない。》

「そうなんだ……。謝ることないよ、僕も気が利かないね。」

川原が、私の真似をするかのように肩をすくめて私を見た。

「ね?お酒強いの、リナさんは。」

「弱くはないですよ。でも川原さんには叶わないと思うの。」

「そうかな、じゃあ試して見ようか?」


川原は目を細め微笑んだ。

「いいですね。」

私も川原を見つめると微笑みを返した。

川原は私から目をそらさずにロックグラスを空けた。

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