
凍夜
第3章 花
アリサさんが殺された翌日、銀さんは一人の少年を家に連れてきた。
蒸し暑く雨の午後。
銀さんは、「シャワーを浴びてくる。」とワイシャツを脱ぎ捨てバスルームへと消えた。
私は少年と二人きりになった。
〈須藤マサシ〉
アリサさんのたった一人の忘れ形見だった。
私は男の子は怖かったから、おどおどしていた。
「リナちゃんだよね?俺はマサシ。おふくろ殺されちゃった。リナちゃんと俺ってなんか一緒だよね?」
私が黙ってうつむいていたら、マサシは尚も話を続けて、
「俺は、おふくろの元親父の所に引きとられるんだって……。ねぇ、リナちゃん、俺たちまた会えるかな?」
と訊いた。
私が顔を上げるとマサシは、遠い異国をさまような儚い瞳で私を見つめていた。
バスルームのドアが開く音が聞こえたのでマサシは声をひそめると、「絶対だよ。」早口で告げた。
マサシは空中で、小指を立てると指切りゲンマンするように振って見せた。
それが、私とマサシの最初の出会いだった。
