
【S】―エス―01
第36章 決行
『今は自国自衛の時代。万一の保険も打っておくべきでしょう?』
『しかし――』
音声のみの為、どんなものなのか分からないが、東雲氏は彼の見せたそれを使用することに難色を示しているようだ。
『本来、クローニングは非人道的行為。それでも罪に問われないのは、あなたが協力しているから』
『私があなたの弱みを握っていることを忘れないでください』
音声がぷつりと切れ、彼らの会話はそこで終わっていた。
録音者は、ニイダこと新田 健――。
もし咲羅がいち個体として制御不能となった時、とられる対策。ハロルドなる人物が言う『対処法』とはなんなのなのだろうか。
瞬矢も刹那も、皆、考えていることは同じなようで一様に押し黙ってしまった。
「よし! 朝になったら出発だ」
部屋に漂う沈黙を打ち破り、瞬矢が明るく声を上げる。だが、無理にそう振る舞っているのは明白だ。
のそりと立ち上がった刹那は、口元に笑顔を滲ませる。
「そうだね。ぐだぐだ考えてたって仕方ないか」
そう言って刹那も踵を返し、部屋に戻ってゆく。結局、咲羅がいるであろう渓谷沿いの城へは、明朝向かうこととなった。
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