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【S】―エス―01

第29章 S‐145

 逆光で影が差しているにも関わらず、褐色の双眸が自分を捉えていることだけはっきりと分かった。少年は西日を背にじっと刹那を見据え離さない。


「……っ」


 刹那自身も、眩い西日に目を細めながら、なぜかその瞳から視線を外すことができない。


 あの屋敷で何度も聞いた夕暮れを告げる曲が、繰り返し頭の中に流れる。


 沈黙のやり取りの中、城壁の後ろから金髪のスーツ姿の男が現れ、少年の傍らに立つ。


 男が彼の肩に手を置くと、その姿は季節外れの蜃気楼のように、ゆらり掻き消えてしまった。


 午後3時25分。


 街で聞いた話のとおり、確かに城の中へと容易に入ることができた。


 彼女が残していった情報では、少年の居場所はここの地下なのだが、どうにもこの城から地下へは行けないようだ。


 付近に少年のいた痕跡はある。しかし、まるで何かにより遮断したかの如くぷつりと途切れたそれを辿ることができない。


 時刻は午後3時52分。辺りはもうすぐ日没を迎えようとしていた。
 

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