
デスサイズ
第2章 Episode 2 痛み
「橘、可愛そうにね」
宛もなく歩いていた黒斗の耳に、聞き覚えのある声が届き立ち止まる。
「……またお前か」
振り向いた先に居たのは、予想通りの人物だった。
その刹那、黒斗の表情が不機嫌なものに変わる。
「学校はどうしたんだ?」
「風邪ひいたから休んだ。今、病院の帰り」
「へえ……」
淡々と答える大神に、黒斗は苛立ちを募らせていく。
「橘の猫、殺されたらしいな。可愛そうに。早く死神が犯人を殺していれば、こんなことにはならなかったのに」
聞き捨てならない言葉に黒斗が食いかかった。
「前も言ったが、お前は死神が罪人だけを襲っていると、本気で思ってるのか?」
コクリと頷く大神。
「実際、こないだの江角だって犯罪者だった」
「……偶然だろ」
黒斗の言葉に、大神は薄ら笑いを浮かべた。
「偶然じゃない。やっぱり死神は罪人だけを襲ってると僕は思ってるよ。全ての罪人は、死神に殺されればいいん…」
言い終える前に、黒斗が大神の胸ぐらを掴んだ。
真っ赤な瞳に怒りの炎を灯らせ、大神を睨みつける。
「全ての罪人は死神に殺されるべきだと? この世界は人間の世界だ。曲がりなりにも“神”である死神が無闇に関与していい場所じゃない」
胸ぐらを掴む手に、更に力が入る。
「罪を犯した人間は、人間に裁かれる。それが、本来の正しい道理だ」
そう言うと、黒斗は乱暴に大神の胸ぐらから手を離した。
乱れた服装を大神は無表情のまま直す。
「血の気が多いな、月影は。赤い瞳も合間って、死神みたいだ」
「……赤い瞳はお前も同じだろうが」
「…………」
無言のまま大神は立ち去っていった。
(人間のくせに、何を考えてるのか解らない……不気味な奴だ)
チッ、と舌打ちをすると黒斗も踵を返して、その場を去った。
