テキストサイズ

デスサイズ

第2章 Episode 2 痛み


小銭を拾い終わり、黒斗も同様に声がした方向を見やると、顔を真っ赤にした50代くらいの男性が電話ごしに怒鳴りこんでいる姿が見えた。


「今度ふざけた事を言いおったら、ただじゃおかないからな!!」

通話を終えると、男はドスドスと足音をたてながら棚に置いてあるビールを手に取り、もう1つのレジに向かった。




「すいませんでした、これで丁度です! あ、レシートは大丈夫でーす!」

「丁度いただきます。ありがとうございました、またお越し下さいませ」


受け取った小銭をレジの中に入れ、出口に向かう少年の背中を見送る。



その時




「邪魔じゃ!」

「あだっ」


ドスドスと喧しい足音をたてながら走ってきた男が少年を強く押しのけ、さっさと店を出ていってしまった。

一方、押しのけられた少年は大きくよろめいて倒れこみ、そのせいでタマゴが割れてしまった。

「うきゃー! タ、タマゴがああー!」

頭を抱えて叫ぶ少年に、黒斗は深い溜め息を吐きながら近寄る。


「大丈夫ですか」

「オ、オレは大丈夫ですけど、タマゴがー……」

「お取りかえ致しますよ」


黒斗の言葉に少年は瞳をウルウルとさせながら、頭を下げる。



その様子を見ていた周囲の客が、ぶつぶつ呟き出す。



「やーねー、あのオジサン」

「ほら、アイツあれだろ、カーメイク林(はやし)の社長」

「ああ、あのブラック企業の……」

客たちの声を聞きながら、黒斗は新しいタマゴを取りに行くのだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ