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第3章 Episode3 挫折


「ところで玲二は? 何か描いてないの?」

「えっ」

突然、話題を自分にふられて玲二が動揺する。
その隣で話を聞いていた黒斗は、美術室で玲二が言っていた言葉を思い出し、首を傾げた。


「お前、絵心無いとか言ってなかったか?」

「あの、その……」

「ウソ、ウソ! こいつ、絵めっちゃ上手いんだぜ!」

口ごもる玲二の代わりに、有理が答えるが、その言葉を聞いた玲二の顔から血の気がサーッと引いていった。


「……有理、玲二はもう描くのをやめたんだ」

俯きながら洋介が言うと、有理は驚いたように何度も瞬いた。


「何でだよ玲二! 勿体(もったい)ないことをするなよ!」

眉間にシワを寄せ、声を荒げる有理。

玲二は肩を竦め、彼の言葉を黙って聞くだけだ。


「お前には才能があるんだ! このまま埋もれさせていいのか!? なあ、れい…」

「うるさいな!! オレはもう描かないって決めたんだ、ほっといてよ!!」


ビリビリ、と鼓膜に響く程の怒声が発され、その場にいる全員がビクリと肩を震わせた。


気まずい沈黙の中で、玲二の荒い呼吸音だけが響き渡る。


「ご…ごめん。つい、カッとしちゃって」

玲二は申し訳なさそうに頭を下げると、黒斗の袖口を掴んだ。


「オレ達、用事があるから…じゃあ、またね!」


それだけ言うと玲二は黒斗を引っ張って、その場を立ち去った。





後に残された洋介と有理は気まずそうに顔を合わせる。


「俺、ヤバいこと言っちゃった?」

「……玲二は、まだあの時のことを…」

「まだ引きずってるのか!? もう終わったことだろ!?」

ゆるゆると洋介は首を振り、俯いた。


「僕らにとっては“終わったこと”なのかもしれない。でも、玲二にはまだ続いてるんだ……」

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