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第3章 Episode3 挫折


「お姉ちゃん、どうして泣いてるの? どこかイタイの?」

「ちゃうねん…ウチのリン…死んでもうたんや…」


絞り出されたような鈴の言葉に、カナが息を呑んだ。


「だから泣いてたんだ…」

「せや…でも、おかんも泣いてばかりじゃアカン言うてたし、いい加減にせなな」


溜まってきた涙を片手で乱暴に拭うと、カナがそっと手に触れてきた。



「かなしい時は、泣きたい時は、泣かないとダメだって、カナのママが言ってたよ」

驚いて目を丸くする鈴に、カナは言葉を続けた。


「カナもココアが死んじゃって、ずっと泣いてたの。パパが、いいかげん泣くのをやめなさいって言ったから、泣かないようにがんばったの。でも、知らないうちに泣いてたの」

目を伏せるカナ。


「でも、ママに言われたの。泣きたい時はガマンせずに泣きなさいって。かなしいのに泣かなかったら、いつまでも心が元気になれないよって」

カナは顔を上げて、鈴に言い聞かせるように語りかける。


「自分以外の誰かのために泣ける人は、やさしい心を持ってるんだって。はずかしいことじゃないんだって。だから、お姉ちゃんも泣きたいのにガマンしちゃダメなんだよ」



“泣きたい時は泣きなさい”



自分の母親とは真逆の言葉に、鈴は心を大きく揺さぶられた。


「……我慢は体の毒ってヤツやな……」

視界が涙で滲(にじ)み、カナの顔がボヤける。


「……かんにんな、カナちゃん。ちょっとみっともないけど、お姉ちゃん…大泣きするわ…」



その言葉を言い終えると、箍(たが)が外れたように鈴の両目から涙が溢れ出た。


「くっ……うっ、うぅ……リン…………うわあああああああん!!!! 守ってやれんで…かんにんな…!」


本当はずっと我慢していた。

悲しくて、悲しくて、泣き叫びたかった。

でも母親に心配をかけたくなかったから、こんなことで泣いてはいけないと思っていたから、我慢していた。

だけど、それは必ずしも正しいことではない。

誰もが感情を抑え込んで、我慢できる強い人間ばかりではない。

涙が出なくなるまで泣いて、ようやく前に進める人間だって居るのだ。

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