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エスキス アムール

第53章 矢吹は良いやつ





どうして矢吹を目で追うのかと言われれば、それは木更津に似ているからだ。

どうして矢吹にドキリとするのかと言われれば、それも木更津に似ているからで。



どうしてそんなに飲んだのかと言われたら、それは……木更津に勧められているみたいに錯覚したからだ。




『波留くん、ほら、飲みな?』


矢吹は声も木更津によく似ている。
最後の方は木更津だと思って接していたかもしれない。

だから、あんなに飲んだし酔った。


俺は何処にいたって木更津を求めてる。
どれだけ肌を重ねたって足りないくらいに。



「……っ」

でも、こんなこと……言えるわけない。
矢吹と木更津を重ねてドキドキしてましたなんて。

ただえさえでもこんなに嫌っているのに、そんなことを言ったら、木更津は余計気を悪くするのではないかと思った。



「……言えないの?」

「……あの……その……」



どうしよう。
こんなこと、まず、恥ずかしいし。
でも、そんなこと言ってられないけど……
木更津は……



「言えないのね。わかった。もういい。」

「……あ……まって……」

「もういい。勝手にしろよ……っ」


そのまま木更津は奥の部屋に入って、出てこなくなってしまった。

なにやってるんだ俺は。
解決策も見出だせなくて、その場に座り込んだ。

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