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エスキス アムール

第53章 矢吹は良いやつ

【木更津side】





「こーへい…こー、へい…」



怒りが収まらない。
あれだけ言ったじゃないか。

もう、会うなって。

それなのに、また二人きりで食事をして、その上こんなに酔ってくるなんて。


高峰くんの前で、酔っ払ってしまってからはあまり飲まないようにしていたはずだ。
僕の前でさえも控えるようになった。


それなのに、矢吹の前でどうしてこんなにも飲んだのか。


それがどうしようもなく、僕を不安にさせる。




「……お風呂は、無理そうだね。
波留くん、ほら、水飲みな。」

「んー、ふふ…さっきも、こーへい…」


水を飲みなと勧めただけなのに、波留くんはふにゃりと笑ってよくわからないことを呟いた。
こんな顔をあいつにも見せたと思うと、本当に許せない。


だけど今怒ったってどうせ覚えていないだろう。
明日の朝だ。

僕の手からコップを受け取って一気に水を飲み干すと、僕の胸に顔を埋めた。
そのときに、彼のではない香水の香りが香ってくる。

……矢吹。

まさか、矢吹にもこんなにベタベタしたわけじゃないよね。
…ベタベタしなきゃ、香りは移らない。


こんなに怒りに満ちているのはいつぶりだろう。
イライラしてどうにも怒りが収まりそうになくて。

ひっついてくる波留くんを無理矢理引き剥がして、突き飛ばした。








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