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エスキス アムール

第43章 だから言ったのに。





「あのさ…。」

マンションの出口に差し掛かった時、要が口を開いた。
その言葉に、要の方に視線を送ると、要はなんとも複雑な顔でこちらを見ていた。



「今日ここに来たの、忘れ物届けるためだけじゃなかったんだよ」

「…え?」



じゃあなんのために来たのか。
要のその先の言葉を待つけど、言い出しそうにはなかった。



「お前、本気なの?」

「…うん…。」


相手が男だということに驚いているのだろうか。
本気なことには変わりないし、要にも言っていなかったから、木更津と付き合った過程を、さわりだけ話した。


それに少しだけ唸って、言葉を続ける。


「はるかちゃんは?」

「え?」

「もういいわけ?はるかちゃんのこと」



やっぱり要は、はるかちゃんのことをどうしても捨てきれないみたいだ。
思い入れがあるのだろうか。


頷く俺に要は苛立つように眉を寄せた。



「俺はそうは見えなかったけど。
お前とはるかちゃんが再会したあの日のふたりの様子を見て。」


「…どういうこと…?」



「お前、あの時どんな顔してたか知ってる?


彼女は泣きそうな顔してお前を見てた。
お前はそれ以上に、泣きそうな顔をして動揺してるみたいな顔をしてたんだよ」


「…」


「だから、俺はお前はまだ彼女のことが好きなんだと思ってた」


「そ…」

「確かにあの人は良い人だと思うよ。お前のことを大事にしてるよ。

だけど、お前、苦しい時に助けてもらったから、すがりついてるだけなんじゃないの?
怖い思いまたしたくなくて、あの人に甘えてるだけなんじゃないの?」




俺が口を挟むまもなく、要はまくし立てた。
俺の目をしっかり見つめて、まるで諭すように。





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