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言葉で聞かせて

第13章 言葉で聞かせて


俺が悠史を引き止める言葉を探していると、悠史が立ち上がって明るい声で話した


「でねっ?エリカさんのご両親が家まで用意してくれたみたいなんだよね。だから……」


心臓の、右心室だか左心室だかに
鉛が落ちたようなそんな感じがした


聞きたくねぇ


「僕やっぱり、あの家を出るよ」


どこぞの少女漫画に描かれるような痛みなんてねぇ
ただただ体全体が重くて

堪らない


「……」


重くなったのは俺の口もで、引き止めるその言葉を言いたくても言えない
悠史のさっきの目がずっと頭にこびりついている


「今週中には引っ越さなきゃいけないんだ。……それで今日は、敦史にお願いがあってね?……千秋さんに別れを言い出しにくいから
、僕が家を出たら……敦史から伝えてくれないかな……」


「お願い」と笑った悠史に「なんで笑えるんだよ」「本当にお前の本心なのか」「我慢するな」と叫んでやりたかったけど


なんで、俺の身体は動かない?


「変なことお願いしてごめんね。……そろそろ帰ろっか。千秋さんが心配する」


行くよ、と声を出した悠史が先を歩いて行って俺を振り返った


「敦史ー?置いてっちゃうよ?」
「……」


なんとかしてゆっくり立ち上がった俺に、悠史が苦笑いを浮かべたのが見えた

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