
言葉で聞かせて
第13章 言葉で聞かせて
敦史が「なんだそれ」と笑いながら千秋さんの頭を撫でる
可愛い
本当に
僕たちの朝食はその和やかな雰囲気のまま終わり、それからはいつも通り仕事の準備
「あれ?やべ、悠史!ワックス貸してくれ」
「少なくなってたの気づかなかったの?」
「敦史さん新しいの買ってありますよ」
「まじか。さんきゅ」
そんな風にバタバタとしていれば、すぐに出勤時間になってしまう
「それじゃあ千秋さん、行ってきますね」
「行ってくる」
「お二人とも行ってらっしゃい」
千秋さんに見送られて家を出る
エレベーターで一階に着き、エントランスを出ようとすると
「悠史!」
と女性の声がした
腰までの長い髪に、白いブラウス、薄いピンク色のスカート
ドレスじゃないから気がつくのが一瞬遅れてしまったけれど、その人は今日朝食の場でも話題になっていた
「エリカさん?」
「おはよう悠史」
とある大企業の社長の娘さんで、僕のお客さん
どうして家と、僕の本名を……?
「あ?なんだてめぇなんでこんなところにいる?」
敦史が警戒して冷たく聞いたけど、エリカさんは意にも介さない様子で「敦史も、おはよう」と挨拶している
