
言葉で聞かせて
第12章 忘れられないこと
だがその後、博秋さんはその無害そうな顔で、千秋を少し大人っぽくしたような馴染みのある声で、俺たちの最も掘り返したくない過去を掘り当てようとした
「そういえば二人は成人してるのにどうしてまだ二人で暮らしているの?これだけ大きいマンションを借りているってことはあんまり引っ越す気はないってことだよね?」
本当に素朴な疑問だったんだろう
顔からも全く悪気なんて感じないし、そもそも普通なら気になるところだと思う
だから平然と答えなきゃいけない
なのに俺たち二人は
何も言えなくなってしまった
「「……」」
突然無言になった俺たちに不思議そうな顔をする博秋さん
「?どうかーー」
「博秋くん!」
博秋さんの声を遮ったのはさっきまで俺たちと戯れていた姉
焦ったような怒っているようなその剣幕に博秋さんも驚いている
「えっ……な、なに?」
「そろそろ帰りましょう」
「うん……?そう、だね?長くお邪魔するのも悪いし」
「えぇ。そういうことだから……じゃあね敦史、悠史。また連絡するわ」
そう言うと姉さんは俺たちを置いて玄関に向かって行ってしまい、その後を焦った博秋さんが「あっ……ご、ごめんね急にバタバタしちゃって……またね。千秋も、元気でね」と追いかけていった
