
言葉で聞かせて
第10章 再来
千秋が風呂から上がってきたからこの会話は終了
「それじゃあ、僕もお風呂入ってくるね」
「あぁ」
千秋が湿った髪の毛のまま俺の向かいに座った
前は隣に座ったのにな
まぁ当然か
他人だもんな
自分の部屋に戻らなかっただけましか
「千秋、こっち座れ」
俺は自分側のソファの下のカーペットを指差して立ち上がった
疑問符を浮かべながら千秋が移動したのを見届けて洗面所に向かう
ドライヤーを持って戻ってきた俺を見て何をされるか察した千秋が体を硬くした
「別に嫌ならしねぇから、自分でやるか?」
俺がコンセントに繋いだドライヤーを差し出すと千秋は少し赤らんだ顔でドライヤーを見つめてから首を横に振った
そして頭を下げると俺に背を向けた
「ふっ」
その行動の可愛さに思わず笑うと千秋の耳が赤くなった
「熱かったら言えよ」
ドライヤーを出来るだけ遠くから当てながら柔らかい髪に指を入れると、乾いた髪が指から零れ落ちていく
「……」
特に話すことも思いつかねぇから黙ってたんだが、別に沈黙がつらくない
記憶がなくても千秋は千秋だよなぁ
いるだけでいいっつーか
だから早く
思い出せ
それで、「やっぱり好きだ」だって言ってくれよ
