
言葉で聞かせて
第10章 再来
歩いて10分くらい
着いたのは高層でもない普通のマンション
オートロックじゃないエントランスをくぐって、4階までエレベーターで上る
廊下を歩いて、ある一室の前で真菜さんが立ち止まった
駅からそれまで何も言わなかった真菜さんが僕に鍵を渡す
「入って」
その顔にはもう駅で浮かべていた笑顔はなくなっていた
鍵を使ってドアを開けると、その中から白い煙がうっすら出てくる
タバコ……
すごい臭い
「ケホッ……」
少し咳き込んで、玄関に足を踏み入れる
廊下の奥のリビングに向かうと数人の男の笑い声が聞こえてきた
どうしよう
どうしよう
大丈夫なんて嘘
やっぱり怖いよ
だって、これ
あの時と同じだもん
フラッシュバックしてきた大学時代の忌まわしい記憶に歩みを止めると、「早く」と真菜さんに背中を押された
それでも震える足は前に進まなくて、痺れを切らした真菜さんが僕の二の腕を掴んで引っ張った
リビングのドアを開けると、その中に放り込むようにして腕を離される
「おぉ?やっとか」
「待ちくたびれちまったよ」
「んー?いい毛並みしてんじゃん」
次々飛び交う言葉に、僕の行く末が見えるよう
痛いのは、嫌いなんだけどな
僕は涙がこぼれないように必死で歯を食いしばった
