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20年 あなたと歩いた時間

第2章 16歳

次の日、私は宿題でわからないところが
あったのを思い出し、午前中は流星の家で
勉強することになった。
久しぶりの流星の部屋は何だかとても
殺風景な感じがした。

「なんか、ずいぶんすっきりしたね」
「かなり捨てたからな。色んなもの」

私は流星の部屋にある折り畳みのテーブルを
出して、買ってきた飲み物を置いた。

「親父の会社がつぶれて、自己破産したときに家中全部さっぱりさせようって話になったんだ。これだけ荷物も減りゃ、夜逃げだって何だってできるだろ」

流星は笑えるような、笑えないような、
そういう少し投げやりな言い方を
最近するようになった。
要以外の友達といるのを見かけることも
なくなった。走るのもやめてしまった。
厭世的な印象さえ受けるときがある。
二つのグラスを手にして、問題集を覗いた。

「どこ?わからないところって…ああ、これか」

シャープペンシルをカチカチと鳴らして
芯を出しながら言った。

「二次関数が展開形で書かれているときは、平方完成して標準形に直すんだ。そしたら軸の方程式と頂点の座標が分かる」
「あ、そっか。すごい。目からウロコ…てことは、」
「この問題集、結構難しいけど、のぞみこんなのやってんの?」

問題集の表紙をみて流星が言った。

「あ、うん。数学好きなの、最近」
「へえ。意外。そういや英語は苦手だったよな」
「どっちかっていうとね。流星は数字大好きだよね」
「わかりやすいのが好きなのかもな。理路整然と証明していくのとか、明確に答えを導き出すとか」
「性格だね」

私は流星の一言で問題が一気に解決し、
どんどん解けていった。
高校に入ってからはどの教科も
いまいちだったが、数学にだけは
面白さを感じるようになっていた。
しばらく私が問題を解くのをみて、おっ、
とか、やるな、とか言っていた流星も
いつの間にか自分の勉強を始めた。
静かな部屋にノートの上を滑るペンの
音だけが響いた。顔をあげると、
真剣に参考書を読む流星がいた。
それは子どもの頃から知っている流星の
表情で、私はなぜか安心した。

「…できたのか?」

本から目を離さずに流星が言った。

「最近、何でおれの顔ばっかり見てんの?」
「あ…気づいてた?」
「…うん」
「ごめん…」

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