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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「おう、お帰り。…大丈夫か?なんか、顔色悪ない?」

下宿の食堂で圭介が、先輩とテレビを見て
いた。

「小野塚、ひさしぶりじゃね?」
「…ちっす。あ、先輩これ、圭介と食べてください」

僕はのぞみとふたりで食べるつもりで買った
ケーキをテーブルの上に置いた。

「え、どうしたん?なに?食べてええの?」
「うん。買ったけど、やっぱ食欲なくて」
「マジで?じゃあ先輩、食べましょ」

重い体をひきずるように、二階の自分の部屋に
向かった。ドアの前には段ボールが置いて
あり、母さんからの荷物だった。
ベリッ、とガムテープをはがすと、新しい
ダウンジャケットやカイロが入っていた。
それから陽子叔母さんが送ってくれたらしい
洋書や僕の好きなチョコレートも入っていた。
ひとつ口に入れると甘ったるいチョコレート

溶けて広がった。合格発表の日、のぞみと
気にいって買った少し高いチョコレートとは
違う、スーパーでよく売っている普通の
チョコレート。その甘さに思わず気持ちが
緩んだ。涙が出た。そしてついさっき目にした
光景が、鮮やかに脳裏に戻ってきて、僕は
思わず目を閉じた。
自業自得。
何でも許してくれたのぞみに甘えて、勉強に
没頭しすぎた。特に研究室に通うようになって
からは、電話すらまともにしていなかった。

「流星?入ってええか?」

ノックとともに、圭介の声がした。
ドアに背中を向けて、涙を拭いた。

「どないしたん?ほんまに具合悪いんやったら、星野先輩呼んでこよか?」
「いや…大丈夫」

星野先輩、とは僕らと入れ替わりに卒業し、
今は研修医として働いているが、まだ下宿に
残っている先輩だ。

「おれで良かったら、話してみる?」

圭介は隣に腰を下ろして、チョコレートを
ひとつ、つまんだ。

「ありがとう…」

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