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妖魔滅伝・団右衛門!

第7章 さすらい団右衛門

 
「そういえば、あなたのお名前は?」

 しかし木の子が素朴な疑問を投げかけた事で、団右衛門の思考は途切れ、意識は現実に戻った。

「ああ……オレは団右衛門。塙団右衛門直之だ。あんたの事は、なんて呼べばいい?」

「そうですね……かつてここに暮らしていた人間達は、私を一郎、二郎、三郎と呼んでいました。合わせて一二三(ひふみ)でいいんじゃないですかね」

「恐ろしく適当な名付けだな。まあいいや、じゃあよろしくな、一二三」

 一二三と名を定めた木の子は、丁寧にお辞儀して応える。大樹のように穏やかで温かい気性は、嘉明と気が合いそうだった。

 団右衛門は、歩み出す。今度はあてもなく、式神を使いながら未知の村を探り出す旅ではない。信じた主を守るため、帰る場所と決めた嘉明の元へ戻るための一歩だった。







 とある日、嘉明は厩へ足を運んだ。しかし、馬の様子を見るためではない。厩で仕事に励む、悠久に用があったのだ。

「嘉明様自ら足を運んでくださるなんて、光栄の極み! それで、お話とはなんでしょう?」

 悠久は大きい体を折り曲げる一方で、浮ついた声を上げる。嘉明は顔を上げさせると、珍しく微笑んで口を開いた。
 

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