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妖魔滅伝・団右衛門!

第1章 夜討ちの退魔師団右衛門

 
「そういえば……遅いな。いつもなら呼び出せば、稲妻のような速さでやってくるのだが」

 嘉明が首を傾げたその時、部屋の外から家臣の声が掛かる。団右衛門は八千代が来たのかと身構えるが、中へ入ってきたのは中年の武士だった。

「申し訳ありません、殿。八千代の奴、朝から城を出ているようで……どうやら出掛ける先も告げずにいなくなったようです。今、小姓の皆で八千代の行きそうな場所を当たっております。しばしお時間を頂いても……」

「八千代が城の外に? おかしな話だな」

「まさかこんな時に限って出掛けるとは……申し訳ありませぬ」

「いないものは仕方あるまい。見つけ次第、こちらへ来るように伝えてくれ」

 中年の武士は深々と頭を下げると、捜索に戻るのだろう、すぐに部屋を出て行った。それからも訝しげに考え込む嘉明に、団右衛門も首を傾げた。

「八千代ってのがいないのは、そんなに大事なのか?」

「ああ。あれは私が拾った孤児でな、帰る場所はここしかない。そのせいか私を父のように慕い、いつもそばを離れなくてな。行き先も告げずに出掛けるなど、初めての事だ。黙って私が出掛けたから、へそを曲げたか……」
 

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