テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第7章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】

「それにしても、昼日中からこのような場所にお参りにこられるとは」
 市兵衛は心もち首を傾げ、逡巡するそぶりを見せた。
「見たところ、随分熱心に祈っているようでしたが、何か気掛かりでもあるのですか?」
 思い切ったように問うた彼を、小紅は少し愕いて見返す。
「いえ、特には」
 言いかけて、肩を竦めた。
「やはり、神仏の前で嘘は良くないですね」
 少しうつむき加減になって言った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ