テキストサイズ

一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬

 事を終えた後、娘が眠っているとでも思ったのだろう、水揚げの旦那に愛想を尽かされた娘の様子を誰も見にこなかったのは二人にとって不幸中の幸いだった。
 栄佐は夜明け前には川辺屋を出た。彼は何と懐から長い紐を取り出した。
「こんなこともあろうかと忍ばせてきたのよ。用意が良いだろ」
 おどけたように言うのはいかにも彼らしい物言いというよりは、小紅の気持ちを少しでも引き立てるために相違なかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ